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私は今、空前のギター熱に浮かされている。きっかけは言わずもがな、『ぼっち・ざ・ろっく!』の主人公・後藤ひとり(通称:ぼっちちゃん)だ。
あのアドリブ力、あの陰キャの魂が炸裂する超絶技巧に憧れて、気づけば手元には彼女とお揃いの YAMAHA PACIFICA612 が、伝説のマスターソードのごとく神々しく鎮座していた。
装備品はそれだけではない。
マンガ全巻、CD購入。さらには何を血迷ったのか、最強の専用防具(のはずだった)「ピンクのジャージ」のコスプレ衣装までポチっていた。これを装備すればヒーローになれる、経験値効率も上がる。そう信じて疑わなかった。
しかし、いざフル装備で鏡の前に立とうとしたその時、私に凄まじい「客観視」という名のデバフ魔法が襲いかかった。
「……待て、この装備で練習する自分を客観的に見てどうなんだ?」
賢者モードに近い高等テクニックを発揮してしまった結果、ピンクのジャージはいまだにタグも切られず、押し入れの中でドラえもんの如く「初期装備のままの私」を静かに監視し続けている。私の防御力は、依然として布の服レベルのままである。
さて、いよいよ聖剣(パシフィカ)を手に取り練習だ。
ギターをPCに接続し、お気に入りのアンプシミュレーターを立ち上げる。しかし、スピーカーから聞こえてきたのは「ロックな叫び」ではなく、「サーーーーッ」「ザーーーーッ」という凄まじい砂嵐であった。
弦を鳴らさずとも、この圧倒的な存在感。ノイズの分際で主役より目立とうとするなんて…。とてもじゃないが気になって集中できない。
これは、ギターヒーローを目指す初心者が、ノイズの猛攻に立ち向かった、エキセントリックな戦いの記録である。
ギター(YAMAHA PACIFICA612VIIFM TBL)
— Volume,Tone ともにMAX
— input Gain 30dBくらい
ケーブル(CANARE LC03)
IF(MOTU Ultralite mk5)
DAW(Fender Studio Pro)
アンプシミュ(Amplitube5)
— Noise Gate: Threshold-51dB, Release 185ms, Depth -43dB
— Over Drive: Level 5, Drive3.86
— アンプ: Brit9000 presence 0, Bass,Middle,Trebleともに5 Master6, Sensitivty6, Pre AMP5
— キャビネット: 4×12 closed vintage
— マイク: Condenser87, Dynamic57
「困ったときはネットの海へ」が現代の鉄則。聖書の1ページ目にも加筆すべきルールである。
情報を求め、電子の海をプカプカと漂った結果判明したのは、「原因候補が多すぎて、どれが正解か分からん」という絶望的な事実だった。
そこで私は、古来より伝わる伝統芸能「数打ちゃ当たる作戦(別名:思考放棄)」を決行することにした。片っ端から試せば、いつか当たりを引くはずである。
試行錯誤一覧
調べると、ギターの「ピックアップ」なるパーツは、弦が震えたときの電気信号をキャッチし、それをアンプと呼ばれる機器で音を増幅することで大きな音を出している。
ところがなんと、弦の振動だけでなく、PC、モニター、Wi-Fiルーター、果てはエアコンの電磁波まで全力でキャッチしてしまうらしい。
…なんと扱いにくいことか。
キャッチされた電磁波はノイズへと突然変異を遂げ、我々の鼓膜を震わせ始める。
ここは日本、電磁波大国。大抵の場所には電磁波が存在する。エレキギターを快適に演奏できる聖域など、この国にはほとんど残されていないのだ(アーメン)。
さらに驚くべきことに、エレキギターは誕生以来、常にノイズと共に生きてきたという。現代特有の問題ではなかったのだ。
安寧の時代を一度も過ごしたことがないなんて……。我々はもっと彼らを、気難しい老人のように敬い、愛を注ぐべきなのかもしれない。
世の中には、ノイズを消すために「猛暑の中エアコンを切り、汗だくになりながら演奏する」という修行僧のような猛者も少なくないという。
わたしは今ここにエレキギターダイエットを提唱する。2026年はAIの時代だが、翌年2027年はエレキギターダイエットである。ロックの健康効果に注目が集まるはずだ。
本題に戻るが、ピックアップにスマホやPCを近づけるとノイズが大きくなるのが確かにわかる。のだが、離れていてもノイズは鳴っている。距離を取るだけではこの戦いは終わらない。
ここで「アンプをClean系にする」という選択肢を選べば、ノイズ問題は解決に向け大きな前進を果たすだろう。だがそれは、お寿司にマンゴーソースをかけるのと同様に許されない。
私が求めているのは、あの魂を削るような歪み。
後藤ひとりの咆哮を再現すべく、迷わずHighGainアンプを選択する。しかし、ハイゲインとは「諸刃の剣」である。歪みを深めれば深めるほど、本来主役であるはずのギター音を食いつぶさんとする勢いで、ノイズまでもがマッシブに増幅されていくのだ。
「良い音」と「騒音」の境界線がゲシュタルト崩壊を起こし始めるなか、私は決意した。このノイズの嵐を鎮め、静寂の中に鋭利な歪みだけを残してみせると。クリーンという安全地帯への亡命を拒絶した、孤独な戦いが幕を開けた。
それまで使用していた弦はELIXIR OPTIWEB Super Light #19002。
一般的な弦が数週間で力尽きるなか、圧倒的なスタミナで戦い続ける鉄の猛者である。サッカー日本代表の長友の2.3倍はスタミナがある。
だが、いかに不死身のエリクサーといえど、放置しすぎればただの「錆びた針金」と化す。重い腰を上げ、同じ弦へと新調することにした。「古い弦はノイズの温床になる」という、まことしやかな都市伝説(?)に縋ったわけだ。
ちなみに、私が頑なにコーティング弦を選ぶのには、ある確固たる信念がある。「弦をコーティングするのは、日焼け止めで紫外線を遮り、乙女の肌を守るのと同じである」という、学会では間違いなく黙殺されるであろう私独自の美肌理論だ。ギターの健康は、まずその肌(表面)のバリア機能を高めることから始まるのである。
張り替え結果:ノイズに対しては、驚くほど無力。依然として元気にノイズを奏でている。
しかし、新調した弦の指触りは最高だ。シルクのような滑らかさに、私の心は少々浄化された。
アンプシミュレーターで使用しているノイズゲートのパラメータを大きく絞り込むと、そこには完全なる無、すなわち「ノイズ0」の静寂が降臨する。砂漠を彷徨った末に澄み切った泉を見つけた旅人の如く、私は「ついに、ついにオアシスを見つけたぞ!」と心の底から歓喜した。
だが、その感動と終戦の余韻は一瞬の幻影に過ぎなかった。
いざ弦をひとたび鳴らせば、ゲートという名の城門を突き破り、潜伏していたノイズたちが一斉に這い出してくる。特にパームミュートの瞬間、奴らは待ってましたと言わんばかりに「コンニチハ!」と元気よく主張を始めるのだ。音が減衰していく繊細な時間帯でさえ、ノイズは主役を食わんとする勢いでそこに居座り続ける。
結局のところ、ゲートが守ってくれるのは「演奏していない時間」だけ。演奏中のノイズまでは消し去ってくれないのだ。
当然と言えば当然だが、現実は非情である。
インプットGainが高いからノイズが調子に乗るのだ。ならば、その供給源を絶つまで。私は理性の刃でGainを削ぎ落とす決断をした。
緻密な計算(と勘)の末、Gainは最終防衛ラインである10dBにまで後退。調整の末14dBで落ち着き、フェーダーがデフォルト状態で-6dBを指すという、教科書に載せたいほど完璧な「入力の最適化」を成し遂げた。これでノイズも大人しくなるはずだ——。
だが、現実は甘くなかった。 ノイズ軍団にとって、私の「緻密な調整」などどこ吹く風。相変わらず我が物顔で居座り続け、解決への道のりは依然として果てしなく遠い。
とはいえ、負け惜しみではないが、これは決して無駄な抵抗ではなかった。入力レベルが理想的に整ったという一点において、これは「歴史的に正しい調整」だったと、自分を納得させることに成功したのだ。
低音をバッサリと切り捨て、ギターの輝きを引き出すべく、EQを使って2.5k~7kの「黄金帯域」をブーストする。勝機はそこにあるはずだった。
しかし、皮肉なことにその「黄金の輝き」の正体は、ノイズ軍団が最も得意とする主戦場でもあったのだ。EQを持ち上げるほどに、ギターの音色と共にノイズがその存在感を誇示し始める。
結局、私は理想の音を諦め、EQのツマミを元に戻すという屈辱的な撤退を余儀なくされた。
「USB HUBはノイズの温床である」ーー。
現在、オーディオインターフェースは電源供給型のHUBに接続されている。
私は意を決し、PC背面に直挿しする「接続先変更」という苦渋の決断を下す。
これが、ひどく苦行であった。
右側に鎮座するPC本体と、左側に広がるHUBの領土。その領土を抜けPC背面にインターフェースがたどり着くためには、150㎝もの距離を移動しなくてはいけない。
ACアダプタやMIDIケーブルを抜き差しし、絡まるケーブルの樹海を見つめながら「ひもQだったらいいのに……」と独り言を漏らす。ノイズは私の耳だけでなく、回りまわって目にも影響を与え始めている。
この調子だといつか、触覚・嗅覚へも攻撃を開始し、わたしの五感はすべて侵食されるだろう。ノイズの正体は立海大付属部長、幸村精市だったのだ。
無我の境地を体得していないわたしは絶望を味わいながらも配線をやり終えた。ようやく辿り着いた検証結果は、非情なものだった。
「……HUBに挿してる時の方が、ノイズが小さい」
かくして、「元のレイアウトに戻す」という、世界一不毛なセルフ・ミッション(受注は任意)が発生。
物理的な疲労と、直刺しがHUBに敗北した精神的ダメージを抱え、私は再度ひもQへと手を伸ばすのであった。
「USB機器の電磁波が黒幕である」という情報が舞い込む。原因特定の条件は、USBを一本ずつ抜き差ししての検証。
死ぬほど面倒 again !!
先ほどの作業「レイアウトの復旧(受注任意)」を終えた今の私に、USBをすべて抜き差しし原因を検証するような気力はもはや残っていない。わたしはこの戦いに敗れてしまうとでもいうのか…。
体力が0を下回り、ポケモンなら瀕死、ドラゴンボールならヤムチャ、遊戯王なら羽賀な私の前に、それは突如として現れた。 迷えるギタリストを救う一筋の光明。
ふと、ギターのボリュームを0にしてみる。
……ノイズが消えた。
瞬時に理解した。ノイズの主因は、ピックアップが外部の電磁波攻撃を健気に拾い続けていること、すなわち「環境的な干渉」であると。
正直、もっと……いや、一番最初に気づけた気がしてならない。だが、この果てしない遠回りを経て、「今後役に立つかわからない知識」を大量に手に入れたのだ。ここは寛大な心で自分を許そうではないか。
調査の結果、この環境的な電磁波攻撃を無効化するのはほぼ不可能と判明した。日本を脱出しアフリカ大陸にでも行けば解決可能性が高いので、資金に余裕のある人にはおすすめだ。
ノイズの発生はギターそのものが原因である以上、ハードウェアの新調で解決する望みも薄い。どうやらこのノイズとは、ある程度付き合っていく必要がありそうだ。残念ながら、親友になれる気は微塵もしないが。
紆余曲折の末、たどり着いた最終解は「ノイズ除去プラグイン」であった。ビックら仰天すこぶる効果的である。
「ノイズがひどいなら、消せばいいじゃない」という、マリー・アントワネットも驚くほどシンプルな思考で辿り着けるはずの結論に、なぜ私は数時間もかけてしまったのか。
①ノイズ除去プラグイン(RX10 Voice De-noise)の使用
「RX10 Guitar De-noise」という、名前だけ見れば「まさにこれ!」と言いたくなるプラグインもあったのだが、処理がめっちゃ重く、適用するとリアルタイム演奏が困難になるほどの遅延が発生。そのため使用を断念。
一方、Voice De-noiseは「Voice」という名称からわかる通り、本来は「声用」プラグインだが、実は遅延ほぼ無しで使用できる最強のエキスパンダーだった。ギターにもOKである。
ポイントは、アンプシミュの前段で使用すること。アンプで増幅される前にノイズを叩き潰すのである。以前と比べ、格段にノイズが気にならない環境が完成した。

②Gateプラグイン(Neutron 4 Gate)の使用
はじめはこれをメインに使い対策していたが、結果なくてもよさげ。「ノイズ除去+アンプシミュのNoise Gate」この2つでいい感じになる。
とはいえ、100%完璧文句なしと言えるクオリティには到達していないため、設定を詰める場合は使用するかもしれない。
こうして、猛威を振るったノイズ勢力は格段にその力を弱めた。もはや彼らは、私の HighGain ライフを脅かす存在ではない。失った膨大な体力に敬意を、そして、ついに手に入れた美しい未来に祝福を――。
……はて、「美しい未来」?
果たしてそんな甘美なものが、この先に待っているのだろうか。
狡猾な敵(ノイズ)を抑え込んだ我々を待っていたのは、平和などではなく、さらなる高みを目指して終わりのない調整を繰り返す「ギタリスト監獄(DTM監獄)」への収監であった。
エフェクターやアンプへのこだわりは無限に上昇し、今度はパラメーターの微調整だけで平気で数時間を溶かす日々が始まる。生活費を削ってまで高価なプラグや最新のシミュレーターを漁り、理想の音という名の幻影を追って、私は自ら監獄の奥深くへと足を踏み入れていく。
結局、ノイズがいなくなった静寂の部屋で、私はまた新たな「沼」の音を聞くことになるのだ。
私たちの指先が、弦を弾くためではなく「購入ボタン」や「設定ツマミ」の上で踊り続ける限り、この監獄に特赦(出所)の日は訪れないのである。
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